「ピンクってありますか?キティちゃん作るんで・・・。」
手芸品店のビーズコーナーで、大きな体を浴衣に包んだ男が店員と話している。
何と彼は、派手な塩撒きで有名な相撲取り、北桜。
190cm、173kgの巨体を道場の大畳に寝そべらせ、真剣な眼差しでビーズにテグスを通していく。
始めたきっかけは、奥さんへのプレゼントだったという。
若くしてその力を見初められた北桜ではあったが、大きな成果を見せることはできなかった。
そんな頃、お金も無い彼が妻の誕生日に贈ったのが、手作りのビーズアクセサリーだった。
「小さな穴に、細いテグスを通していく。それって、相撲と同じだと思うんです。」
その出来栄えは、趣味で長くビーズ細工を作っていた俺の嫁も認める美しさ。
太く節くれたあの大きな手から生まれたとは、とても想像できない。
しかも、作っているときのあの表情。
ごめんなさい。
怖いッス。
最近は、お相撲さんのメディアに対する露出が積極的になってきた。
北桜のような人もさることながら、自身のブログを公開している人も少なくない。
これまで土俵の世界には、多く語ることを良しとしない伝統があり、それは一つの「理想像」として息づいてきた。
しかし近年、相撲人気の低迷や、外国人力士の活躍からか、その理想像も変革を求められているようだ。
今、人気のある力士に求められているのは、実力だけではない。
その人間性やキャラクターも、観客をひき付ける大事なファクターであることに違いない。
「僕は相撲ファンですから。お客さんも、喜んでたでしょ」
汗まみれの真っ赤な顔で、禿げの入った頭の34歳は、そう言って笑う。
時代を受け継ぐ人とは、次代につなぐための一過点でもある、と感じた。
とりあえず大好き北桜。
気力の続く限り、頑張って欲しい。